いま僕は、動物園のライブラリーをつくっている。今回は、その制作の道のりについて書いてみたい。

112周年を機に改装

京都市左京区岡崎に京都市動物園はある。平安神宮の隣にある動物園といえば、京都在住の方でなくても何となく思い出してくれるのかもしれない。ここは、1903年4月1日に開園した日本で2番目に古い動物園(最も古いのは上野動物園ですね)。明治時代の開園当初から、収容動物61種238点という実に立派な施設だった。

京都市動物園はその後、大正、昭和、平成と時代を重ね、戦火や幾多もの苦難を乗り越え112年の歴史を誇るものになった。そして、今年2015年の7月11日に図書館のある正面玄関を晴れてリニューアル・オープンすることになったのだ。

その改装にあたって、園内の図書館施設も新しくつくりなおすことになった。以前あった「動物図書館」にも6000冊の動物に関する書籍を所蔵していたのだが、奥まった場所にあった図書空間には、なかなか人が立ち寄ってくれなかったようだ。今度の新しいライブラリーは、チケットを買うより前にあるフリースペースに立地を変更。つまり、入園券を買わずとも、老若男女だれもが足を踏み入れることができる場所となった。

今回の僕の仕事は、パブリックスペースとなる図書館に新しい本を選び、既存の本に加えて並べること。そして、新しい本と既にある本を融合させて、今まではなかった図書館の引力をつくることだ。

全体のバランス調整

はじめに取り掛かったのは、ライブラリー全体のバランスを整えること。というのも、この京都市動物園には図書館司書がおらず、飼育係の担当者が代々ここの本を伝え継いでいたのだ。

例えば、いま本の世話をしている坂本英房さんも元は飼育係。現在の肩書は「種の保存展示課長」だけれど、獣医師の資格も持っている。そんな坂本さんと初めて会ったとき、彼がとても大事そうに1枚のふるーいパンフレットを持ってきて、丁寧に見せてくれたことを僕は忘れもしない。それは、開園直後の明治時代から保存してある園内案内図。いまは絶滅してしまったニホンカワウソを飼育していた話をしてくれた。そして、それを説明しているときの彼のうれしそうな顔といったら。

飼育のプロがつくってきた本棚は、どうしても専門的になってしまう。古い資料も、難しそうな研究発表もじっくり向き合ってみれば読み応えは確かにあるのだが、ここはパブリックスペース。絵本や漫画、エッセーや写真集など、手に取りやすい内容の本を追加しなくてはいけない。

一方で、今まで本を護ってきた飼育係の情熱も伝えたい。これまで集めた本をリスペクトしながら、一般来園者にとって親切でわかりやすい場所にもしたい。そのバランスを保つため、僕が頼りにしたのは、動物のプロが書く軽い読み物だった。例えば、動物行動学の第一人者だった日高敏隆のエッセー『人間はどこまで動物か』は、僕のような「動物素人」のこともイメージできているプロの仕事。手にとってみると専門分野の範疇(はんちゅう)におさまらない洒脱さと面白さがあり、だれが読んでもきっと響く部分がある(特にタヌキの子育てのエッセーはぜひ読んでみてほしい!)。こういった本を橋渡しにして、何とかわかりやすさと専門性の融合を目指したわけである。

この場所ならでは

次に気をつけたのが、この動物園の磁場を大切にすること。つまり、京都市動物園ならではの本とは何か?ということを、企画中ずっと僕は考えていた。岩合光昭の動物写真は誰もが喜ぶだろうし、ミロコマチコの絵本もすてきだ。手に取りやすく愉しい動物本はたくさんある。けれど、京都の動物園だからこそ手に取りたくなる本とは何なのか?

今回注目したのは、京都市動物園で写生をした絵描きたちの足跡だ。明治以降の京都画壇はじつに多くの画家たちを輩出してきた。彼らは円山四条派を中心とした近世の伝統を受け継ぎながら、西洋の技法も取り入れ、独特の世界観を形づくった。なかでも幸野楳嶺(こうの・ばいれい)門下で「楳嶺四天王」の筆頭と呼ばれる竹内栖鳳(せいほう)はじつに見事な動物の絵を何枚も描いたことで知られている。

「大獅子図」や「班猫」などの代表作だけでなく、ウサギやゾウ、ニワトリ、トラ、クマ、シカなどなど、動物の匂いまで描くといわれた栖鳳の筆。後に「東の(横山)大観、西の栖鳳」と称され、その後の日本画界に大きな影響を与えるのだが、そんな竹内栖鳳は弟子たちに「写生」と「省筆」を徹底させ、ここ京都市動物園にも何度も通って動物たちを写生したそうだ。新しいライブラリーでは「京都画壇と動物園」という企画棚をつくり、京都の画家たちが描いた動物に想いを馳せてもらうことにした。この場所の来歴を大切にすることで、ここにしかない本棚はできるものだ。

そんなこんなで、ライブラリーは完成まであと一歩というところまで辿り着いた。何といってもリオープンは来週。あとは腰痛を庇いつつ、もくもくと棚に数千冊の本を並べていく。額に汗しながら、結局は肉体労働者なのよねとつぶやく。新しく生まれ変わる棚の全貌が少しずつ見えてきた。さあ、あともう一仕事がんばろう。できあがったら、皆さんもぜひ見に来てくださいね。

幅 允孝

『SANKEI EXPRESS』2015.7.7 に寄稿
http://www.sankeibiz.jp/express/news/150707/exg1507071530004-n1.htm