「行儀よく絵本を読んでいて、君はエライねぇ」。そんな言葉を五味は決してかけてくれない。絵本を描きながら、いつまでも絵本を疑ってかかるのが五味太郎という人だ。「騙されたと思って読んでみな」。彼はそう言いながら、僕らの核心を少しだけ揺らす人。
 この『大人問題』はそんな五味節が炸裂する、小さな覚書が集まったエッセイ集。五味のエッセイは、絵本よりも直接的に彼のスタンスが表れていて、僕は好きなのだ。数行ずつ連なる五味の言葉は、あちらに曲がり、こちらに曲がり、最後はどこに流れ着くのやら。子育てや教育に関する五味の意見が並ぶのだが、彼はなんとも公平だ。五味は徹底的に子供の側につきながら、子供たちを決して甘やかさない。そして、自分らの充足のために大人が子供をどう使ってきたのかを露わにする。そこの有害な大人たち、反省なさい!
 だが、これを読んで「目から鱗が落ちました」という大人を五味は決して信用しないのだろうなぁ。なぜなら、五味太郎の本は「読んだ!」というより、「巻き込まれた!」というべきもの。これは子供論の答えではなく、自分なりに考えていくための第一歩だ。あちこちの壁にぶつかりながらヨタヨタ必死に歩いていこうではないか。子供も、大人も。

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『大人問題』
五味 太郎/講談社/2001年

飛ぶ教室 2015 SUMMER(2015年7月25日発売)に寄稿